みんなよく平気だな、ネット社会

はてなインターネット文学賞「わたしとインターネット」

 
あなたが自然災害の防災グッズを取り揃える派であるなら、デジタル災害の防災も考えておくことが危険厨としての嗜みであろう。本稿ではあなたに降りかからんとするデジタル災害について2例を紹介したい。1項目はありきたりかも知れないが個人情報流出リスクの話、2項目は世の中のデジタルデータが一瞬にしてグチャグチャになる話。危険厨なら備えるべきを語りたい。
 
1.勝手に被害クラウド
日々個人情報は漏れていく。
有名な例では2014年大手通信教育会社から3500万人もの顧客情報が漏洩した。データ管理を担っていたグループ会社の業務委託先担当がアクセス権を悪用しデータを持ち出したとのこと。虎の子のはずの大規模顧客データの管理が実際の現場では委託に頼る体制でかつ統括責任者不明確と、現代ありがちな日本の会社の縮図のような状況だったようだ。
これほど大規模でなくても毎日のようにどこかの会社から個人情報流出は起こっている。地方自治体からもコロナ感染者の個人情報が次々に漏れていっており、全くもって他山の石になるわけでもなく社会の体質のようだ。
あと、これも2014年だったがクラウドからの海外著名人プライベート写真大量ハッキング事件があった。恋人とだけ共有するような写真を多くの人がクラウドに保存していることにただただ驚く。そんなこんなあろうともお構いなしに世の中はクラウド・バイ・デフォルトの流れなんだそうだ。
このような現代社会の実情からして、わたしたちの氏名住所の流出はどんなに注意しても例えば役所がグダグダだったら防ぎようがない。もう氏名住所程度は仕方がないとして、一方で絶対に他人に見られたくない画像とかネット銀行のID/パスワードなんかをクラウドに置くなんて危な過ぎると思う。さらにはあまり複雑でないパスワード設定をしがちも重なる。思うのだが、もう流出させたサイト運営を責めるよりも(そうは言っても責めるが)あなた自身が防衛できることをきっちり防衛していく姿勢が重要に違いない。
 
2.太陽フレアや電磁パルス攻撃
デジタル情報は1ビットあたり1か0かで記憶されてるわけだが、その実体は構成原子のスピンの並び(磁気ディスク)だったり微小電荷が溜まったコンデンサ(半導体メモリ)であったりする。極々小さな確率だが1ビットの情報を1→0または0→1に変えるソフトエラーという現象がある。これが起こる主な原因は、物質に極微量含んでいる放射性元素からの α線のせいだったり、宇宙から降り注ぐ宇宙線及びそれが空気と素粒子反応を起こしてできた二次粒子線のせいだとされる。家庭用PCでソフトエラーがまれに起こったとしても、ソフトエラーが起こったのか他の関連機器の誤動作なのか良くわからず終わってしまうのが実態のように思う。
ところが企業の立場ではそうはいかない。金融機関の顧客預金情報がエラーで失われたりしたら、仕方がないで済む話ではない。金融機関では2重3重のバックアップがなされており、1セットが故障・誤動作しても別のセットがリカバリーできるようになっている。普通ではこれら全部が同時にいかれてしまうことはありえないのだけど、もしシステムの想定を遥かに越えて地球規模で超大量に粒子線を浴びるようなことが起こったならバックアップも含めてデータが損傷するかも知れない。例えば千年に1回起こるかも。何しろデジタル社会・ネット社会はこの数十年ほどで発展したものであるから(祝はてな20周年!)、この期間無事だったからといって、この先安泰な保証などないと思う。
超大量の粒子線を浴びる原因候補としては太陽フレアがある。太陽活動の揺らぎに関して先々までの想定は難しいだろうからどんなレベルのことがまれに起こるか見通せない。あと人工的な方法(攻撃)としては高高度で核爆発を起こすことで発生する電磁パルス攻撃というのが軍事的にはありうる(いずれもネット検索すれば出てくるので解説はそちらに委ねる)。これらのことがもし起こると多分金融機関のデータが混乱する恐れだけではなく、そもそも電気系統のインフラがやられてしまうだろう。非常に広範囲に被害が起きれば復旧は困難を極める。そして個人の預金記録が追えなくなって復帰目途が無いとなるかも知れない。
自分だけ良ければ的考えだけども、個人としては自分の預金を金融機関のデータ記録だけに頼らずに”通帳”を保持し続けることがこのような場合に到って何とか自己の保有額を主張する材料になりうるかと思う。今銀行はこぞって通帳レスに舵を切っているが、デジタルデータでしか財産の記録がないという状態はどうにも不安でならない。
さてこの話、例えば千年に1回と述べたが、千年に1回なんて歴史ものじゃあるまいし(千年前は平安時代だ!)そこまで心配するのは行き過ぎで確率はほぼゼロではないかとあなたは感じるかも知れない。しかし冷静に考えてみよう。あなたの余命が50年として、あなたが生きている間に千年に1回の事象に出会う確率は50÷1000だから20分の1である。宝くじより遥かに高い確率であり運が良いと、じゃなくて運が悪いと当たるレベルなのだ。千年に1回の事象によって、もしあなたの人生を致命的にするならば備えておくべきと言いたい。とはいえ、太陽フレアでの大量データ破壊が千年に1回起こる根拠はなく、ここはわたしの勝手な論法ではある。
 
最後に
実は正直言って何となく、クラウドや通帳レス、その他ネットにまつわるシステムに不安を抱き続けている。その不安感を少しは具体的事象として示したかったのが本稿の趣旨。あなたの危険厨マインドに届いただろうか。結局のところ、何と言うかネット社会に身を任せたくないというのは、事故が怖くて自動車に乗りたくないというようなものかなと思いつつも。

 

2021年7月31日